Sunday, March 05, 2006

生物学にはいくつかドグマがあって、チャレンジすると大火傷したり、場合によっては荒野で野垂れ死にする原因になることも多いのものです。もっともドグマにチャレンジするって遊びではないので、それなりのモチベーションがあって取り組む人がでてきます。神経科学におけるドグマというと、神経細胞は胎生期から生まれてからの限定的期間において生み出され、成人してからは減っていくばかりだというのが通説でした。 YaleのRakicなどは霊長類の脳細胞では細胞の分裂はないと結論づけ、「分裂できない特性と神経細胞の可塑性にはトレードオフの関係があるのではないか」と考えていたくらいです。 RockefellerのポスドクだったGouldはストレスと脳におけるglucocorticoid(副腎皮質ホルモン)の機能の関係について研究していました。ストレスによって大量のglucocorticoidが産生され、これを浴びた脳細胞が死ぬのではないかと考えていたが、細胞が死んでいるはずの場所には何も起っていませんでした。失敗した実験の原因を探そうと図書館に行ったGouldは忘れ去られた論文を見つけてしまいました。「ラットのみならず猫、モルモットでもニューロンは新生する」と書かれた論文は1962年MITのAltmanによって発表されましたが、その後、無視され忘却の彼方に消えていたのです。 Gouldは、その後の8年間、哺乳類における脳細胞の新生を証明すべく、ラットに3H-チミジンを投与して、脳切片のオートラを観察し続けました。 Gouldの研究がある程度受け入れられたのも、時代の要請と考えられますが、別方面からの援軍があったのも幸運でした。 (続きは明日)

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