Thursday, March 16, 2006

イギリスでWaltham Parexel Internationによる治験で21歳大学が亡くなった他、薬の投与を受けた他の5人も重篤な症状を呈しているとのことだ。 Parexelが請け負った治験はドイツのTeGenero AGが開発した薬で、慢性Bリンパ球性白血病およびリューマチの治療薬であり、開発コードはTGN1412とされていた。ちょっと調べてみるとこの薬は所謂抗体薬であり、CD28に対するヒト型のモノクローナル抗体薬であった。 CD28はB7とペアをなすTリンパ球の共役型シグナル分子であり、この分子の信号伝達系については既によく知られている。Tリンパ球の信号伝達系は恐ろしく複雑で、主要なリセプターと、会合するシグナル分子、補助分子、チロシンキナーゼ、アダプター分子、ホスファターゼ、C-キナーゼ、MAPキーナーゼ等等で構成され、これらの分子のキャスケードが正しい序列で活性化あるいは抑制されることで、ホメオステシスが保たれる。 CD28は抗原提示細胞の表面にあるB7分子と会合し、細胞内に情報を伝えているが、人為的にCD28の細胞外の部位を特殊な抗体で架橋すると、無軌道な暴走なしにT細胞を活性化出来るという報告がある。 この実験モデルは、ドイツのWurzburg大学のグループなどが取り組んできが、かなり巧妙な方法だと認識されてきた。しかし、BBC newsやBoston heraldの記事を読む限り、明らかに多臓器不全が疑われ、おそらくサイトカインストームが起きているのだろう。 今のところ想像しかできないが、CD28はもともと、TcRやCD3などとともに細胞表面にいる分子であり、高濃度で投与した場合などには、短時間に細胞表面をベタベタにさせ、様々なスウィッチをたたく可能性もある。この推論が正しいかどうかは今のところ確証はない。
 昨年にはNature Immunologyに、ヒトCD28の結晶解析の論文がでているので、TGN1412がCD28のどこに結合するのかは、専門家であれば予測はできる。 
今回の事件はMolecular Immunologyをやっているヒトにはかなりショッキングな出来事だ。これまで、サイトカインの製品化など比較的サクセスストーリが続き、抗体薬もpromissingだと思われていたのだから。これからしばらくは、実験免疫学と臨床免疫学の対話によってリアリティーを追求していくしかないのかと思う。免疫学は既に枯れた学問だというヒトが多いが、いまだに分からないことが多い。Tregの話じゃないけど、これからもいくつものパラダイムシフトが待ち受けているのだろう。 ヒトの末梢や臓器には少量のリンパ球が常在しているし、イマージェンシーの時には、今まで見たこともない細胞集団が突然出てきたりする。未だに組織学と細胞免疫学が重要だということだろう。もちろんexpression profilingが重要なのは言うまでもない。

細胞分化のチェツクポイントがあまくなったりした場合などにおいては、シグナル分子のネットワークにもplasticityが生じても不思議ではないと思う。
BBCnews 
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgicmd=Retrieve&db=PubMed&dopt=Abstract&list_uids=15696168

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