染色体の位置と遺伝子の進化速度には一定の関係があるとの観察があり、これを説明するモデルが幾つか提示されてきた。Biaced gene conversion モデルによれば、局所的な組み換えの起こる確率はGCコンテンツとランダムな突然変異(中立進化)の両者の影響を受け、新たな組み替えによって突然変異がさらに誘発され、GC比は上昇する方向に向かうのではないかとのアイデアも提唱されている。このモデルの検証にイヌのゲノムシーケンスが活用された。
哺乳類の共通祖先(CAE)から、イヌへの分岐の過程で染色体はすさまじい構造の変化が認められる。イヌでは小さな染色体が多数有り、セントロメア近傍での逆位と染色体同士のセントロメアによる接合が起こったと考えられている。
一方、ヒトのサブテロメア領域はG/C比(GC4D9や突然変異の生じる確率(Ks値)が明らかに高く、イヌ、マウス、ラットなどよりこの傾向が顕著だという。ヒトのサブテロメア領域では組み換えが起りにくく、GC比は高いが、イヌ、マウス、ラットではサブテロメアにおける組み換えの頻度が高い。
BGC説によれば、ヒトでは染色体のサブテロメア領域のGC比は高く、組み換えが起こりやすいと解釈される。組み換えが起こると遺伝子変換とともに、ミスマッチの修復がなされ、GおよびCの塩基が挿入される確率は高くなる。これによりGC比は上昇し、さらに突然変異の確率が上昇すると予想される(疑問も呈されているが)。今回の研究ではBGCモデルに否定的なデータが提示された。ヒトの染色体は、想定されるCAEの原初的な構造が維持されいるが、イヌではかなり変化しているため、ヒトのサブテロメア領域のGC比は、イヌの同一領域より高いはずである。確かにその傾向はあるものの、組み替えが起りにくいセントロメア周辺とあまり変わらない比率でしかなかった。BGC説によれば、GC4Dの値はひととイヌの同一領域で変化し、組み換え率も異なるはずであるが、ヒトとイヌではGC4Dの値はあまり変わらない。むしろ遺伝子領域におけるのGC4Dの値は、極めて古い時代に定まったものと考えられる。従って、ヒトのサブテロメアのGC比が高いのは、どの染色体といわず、哺乳類の共通祖先あるいはそれの祖先から受け継いだものと考えられる。41個の遺伝子を選び検証すると、コドンの3番目の塩基のGCの比はヒトでは2.3%しか増えないし、イヌでも2.1%と際立って上昇しているわけではなかった。即ち、突然変異の蓄積と染色体のキネトコア構造はあまり関係がないのかもしれない。
Oxfordの連中の提唱する説は、G/C比が高い領域では染色体の接合も起こりやすく、接合を繰り返すことによって、G/C比の高い領域が結果的にテロメア側に移動して行くとするモデルである。 このモデルでは、新たに出来たテロメアもGC比が高いところで染色体の接合が起こる。セントロメアも染色体同士の接合により形成されうると考えられ、セントロメア側でもGC比は高くなる。更にセントロメアとテロメアの逆位が起こるというものである。
このモデルはあくまでも、イヌとヒトの比較においての議論であり、一般化できるかは疑問がある。むしろ、霊長類の染色体がなぜコンサバティブなのかに興味がある。また、染色体の組み換えが高頻度で発生するホットスポットは生殖細胞系列に特異的な動作スイッチをもっているのであろうか?
GenomeResearch2005 December